今年度は例年より複雑!令和5年度 労働保険の年度更新の注意点と年度更新の基本。

令和5年6月1日より、労働保険の年度更新申告の受付が開始されます。  

年度更新とは、毎年6月1日から7月10日までのあいだに労働保険料を計算し、納付を行う毎年定例の手続です。厚生労働省から企業宛てに、年度更新の申告書および納付書が同封された緑色(青色)の封筒が発送されています。

本年の申告・納付期限は、7月10日(月)です。

昨年度は、4月と10月に2段階で雇用保険料率が引き上げられるというイレギュラーな年であったため、今年度の年度更新は例年に比べてかなり複雑なものになっています。

今回の記事では、年度更新の基本情報に令和5年度の変更点を盛り込んでお伝えします。 

目次

労働保険の年度更新とは

労働保険は、労災保険と雇用保険の2つの保険の総称です。

年度更新は、従業員がいるすべての企業が実施しなければならない手続で、前年度に従業員に支払った賃金を月ごとに集計し、業種ごとに定められた保険料率を掛けて保険料を計算します。賃金を集計する期間は、前年度4月1日から3月31日のあいだに働き、支払いが確定した分の賃金です。

労働保険はすべての従業員に適用しますが、事業の種類や雇用の仕方によって適用方法が異なり、「一元(一般的な業種)」と「二元(建設業や林業など賃金だけでは労災保険料が計算しにくい、労災保険料率が複数適用されているなど)」に分かれます。

令和5年度の年度更新手続の変更点

今年の年度更新に関する料率などの変更点をお伝えします。

令和4年4月と10月、雇用保険料率の引上げにより算定方法が例年と異なります

雇用保険料率が令和4年4月、10月の2段階で引き上げられたことに伴い、令和4年度確定保険料の算定方法は例年と異なります。

具体的には、保険料算定基礎額と保険料額を、労災保険分と雇用保険分ごとに前期(4月~9月)・後期(10月~3月)に分けて算出します。

確定保険料・一般拠出金算定基礎賃金集計表の様式が変更されています。

雇用保険料率の適用は表を参考にしてください。

令和4年4月1日~令和4年9月30日までの雇用保険料率

令和4年10月1日~令和5年3月31日までの雇用保険料率

労災保険料率に変更はありません。

参考:厚生労働省『労災保険料率表』

年度更新申告書の様式が変更になっています

年度更新申告書の下段に、新たに「㉜期間別確定保険料算定内訳」欄が設けられました

確定保険料・一般拠出金算定賃金集計表の、「令和4年度確定保険料算定内訳」で算出した額を転記します。

なお、令和4年度は雇用保険率が年度途中で変更されているため、確定保険料算定内訳の「⑨保険料・一般拠出金率」欄には、「32欄参照」と印字されています。「 ㉜期間別確定保険料算定内訳」欄に適用される雇用保険率が印字されているため、注意してください。

最難関ポイント「㉜期間別確定保険料算定内訳」の記入

今年度新たに追加になったこの欄の記入こそが、今年度の年度更新を適正に行う上で最も重要かつ難解と言っていい箇所かと思います。その内容について解説していきます。

㉜期間別確定保険料算定内訳の記入は、「令和4年度 確定保険料・一般拠出金算定基礎賃金集計表」からの転記となりますので、この集計表をもとに説明します。先に解説しました通り、今年度は労災保険分と雇用保険分ごとに前期・後期に分けて保険料算定基礎額と保険料額を算出するため、集計表の下段に「令和4年度 確定保険料算定内訳」という欄が設けられています。

「令和4年度 確定保険料・一般拠出金算定基礎賃金集計表」(上部)と「令和4年度 確定保険料算定内訳」(下部)は1枚の用紙にまとめて記載されていますが、ここからの記事におきましては便宜上「令和4年度 確定保険料・一般拠出金算定基礎賃金集計表」を「集計表」と「令和4年度 確定保険料算定内訳」を「算定内訳」と表記します。

集計表を作成した上で、算定内訳に数字を順に記入していくわけですが、先に言いますと今年度は確定保険料を算出するための端数処理(切り上げか切り捨てか)が結構複雑です。十分注意して記入してください。

前提としてマスの左上に記載されているカナ((イ)(ロ)(ハ)…)にて、記入箇所を説明します。

出典:厚生労働省年度更新申告書計算支援ツール「令和4年度確定保険料・一般拠出金算定基礎賃金集計表/確定保険料算定内訳」より

保険料算定基礎額の記入

まず保険料算定基礎額、つまり賃金合計額を記入します。

(イ)(ロ)(ヘ)(ト)について、集計表上部に記入した賃金額より、労災保険分・雇用保険分、そして前期分・後期分に分けて転記してください。(イ)+(ロ)、(ヘ)+(ト)の欄もそのまま足して計算してください。

集計表下段の「合計」の金額と、(イ)+(ロ)、(ヘ)+(ト)の金額が同じにならないケースがあります。

具体的に例をいいますと、例えば労災保険分の前期分合計額が1,623,500円、下期分合計額が1,624,500円であった場合、集計表の「合計」欄は3,248,000円となっていますが、算定内訳の記入の際は、千円未満切り捨てですので、(イ)は1,623千円(ロ)は1,624千円となり、その合計である(イ)+(ロ)は3,247千円となり(※下記【算定内訳例】参照)、同じ数字にはなりません

保険料率の記入

次に、(ハ)に労災保険料率を、(チ)(リ)に雇用保険料率を記入します、特に雇用保険料は前期と後期で保険料率が変わっていますので、注意して記入してください。

確定保険料額(その1)の記入

算定内訳の保険料算定基礎額(イ)(ロ)(ヘ)(ト)の数字に、それぞれの右側に記入した保険料率を掛けて(ニ)(ホ)(ヌ)(ル)に記入します。

1円未満の端数が出た場合も切り捨てずにそのまま記入します。

つまり、(イ)が1,623、(ハ)が2.50の場合、1,623×2.50=4057.5 ですので、(ニ)に4057.5とそのまま記入してください。記入できましたら(ニ)+(ホ)、(ヌ)+(ル)の欄に合計額をそれぞれ記入します。ここでも1円未満の端数が出ても切り捨てずにそのまま記入することにご注意ください。(【算定内訳例】参照)

労災保険分 確定保険料(その2)の記入

次に(ヲ)を記入します。ここが一番注意が必要なポイントです。(ニ)+(ホ)の数字における1円未満の端数を切り上げする場合と切り捨てする場合があります

切り上げする場合

次の条件をどちらも満たした場合のみ切り上げとなります。

❶ (イ)と(ヘ)の金額が同じで、(ロ)と(ト)の金額も同じ
つまり労災保険分の保険料算定基礎額と雇用保険分の保険料算定基礎額が同じということです。通常であれば、労災保険の対象となる労働者全員が、雇用保険にも加入しているということになるでしょう。

❷ (ニ)+(ホ)欄の小数点以下の端数と、(ヌ)+(ル)欄の小数点以下の端数を足した時に1円以上になる

具体的に見てみますと、例えば算定内訳が【算定内訳例】だった場合、

(イ)1,623 = (ヘ)1,623
(ロ)1,624 = (ト)1,624 であり、

(ニ)+(ホ)欄 8,117.5 の小数点以下の端数0.5と、(ヌ)+(ル)欄 37,342.5 の小数点以下の端数0.5を足すと1.0となり

❶❷どちらも満たしますので、(ニ)+(ホ)欄 8,117.5 を切り上げ、(ヲ)は8,118円となります。

【算定内訳例】参考:厚生労働省年度更新申告書計算支援ツール「令和4年度確定保険料・一般拠出金算定基礎賃金集計表/確定保険料算定内訳」

切り捨てする場合

先に示した切り上げの条件を満たしていない場合は、すべて切り捨てとなります。

例えば(イ)と(ヘ)の金額が異なる場合は、(ニ)+(ホ)欄の端数と、(ヌ)+(ル)欄の端数の合計が1円以上でも切り捨てとなります

逆に(ニ)+(ホ)欄の端数と(ヌ)+(ル)欄の端数の合計が例えば0.5となり、1円未満だったときは、(イ)と(ヘ)の金額及び(ロ)と(ト)の金額が同じでも切り捨てとなります

雇用保険分 確定保険料(その2)の記入

最後に(ワ)です。ここは、(ヌ)+(ル)欄の数字における1円未満の端数を必ず切り捨てます。例外はありません。

令和5年度年度更新その他の情報

一般拠出金算定基礎額にも注意

地味ですが一般拠出金の算定基礎額の記入には注意が必要です。

この部分は例年と変わっていない部分なのですが、令和5年度は労災保険の算定基礎額の記入方法が変わりましたので、それにつられて記入を誤る可能性があります。

一般拠出金の算定基礎額は、算定内訳の(イ)+(ロ)ではなく、集計表の労災保険および一般拠出金の欄の賃金合計額である(10)の千円未満を切り捨てた額です。正確な金額の記載をお願いします。

参考:厚生労働省令和4年度確定保険料・一般拠出金算定基礎賃金集計表/確定保険料算定内訳」

令和5年度に対応した年度更新申告書支援ツールが公開

毎年、年度更新の申告書に合わせた計算支援ツールが厚生労働省から公開されます。Excelで作成されているため使いやすくなっています。ご利用は、こちらからダウンロードしてください。

参考・ダウンロード:年度更新申告書支援ツール(継続事業用)

          年度更新申告書支援ツール(雇用保険用)

          年度更新申告書支援ツール(建設事業用)

年度更新申告書を作成するときのチェックポイント

ここでは、年度更新書類を作成する際のチェックポイントを解説します。

労働保険対象労働者

労働保険の対象労働者は、労災保険と雇用保険で異なります。従業員の月ごとに支払うすべての賃金を集計するときに、正しい対象労働者を選定しないと保険料が正しく計算できません。

労災保険

時間・日数・期間を問わず、労働の対償として賃金を受けるすべての従業員が対象です。役員や事業主と同居している親族は対象外です。派遣従業員については、派遣元事業場での適用になります。

雇用保険

正社員、契約社員、パート・アルバイトなど雇用形態にかかわらず、すべての雇用保険の被保険者が該当します。役員で雇用保険に加入している兼務役員も含まれます。

雇用保険の被保険者とは、1週間の労働時間が20時間以上かつ31日以上引き続いて雇用されることが見込まれる従業員です。また、雇用保険マルチジョブホルダー制度により雇用保険に加入している65歳以上の従業員も対象です。

労働保険料の計算に含める賃金、含めない賃金

従業員の月ごとに支払う賃金には、労働保険料の計算に含める賃金と含めない賃金があります。働いている従業員に支払う賃金、手当、賞与など名称にかかわらず、労働の対償として支払うすべてのものが対象となります。  

含める賃金

基本給、各種手当、賞与、通勤費(定期券)、休業手当 など

含めない賃金

役員報酬、慶弔見舞金、退職金、解雇予告手当、休業補償費 、実費弁償的な費用  など

年度更新書類に同封されている申告書の確認

年度更新書類に同封されている申告書には、企業の労働保険料に関する重要な情報が記載されています。登録情報を確認してから手続を始めるようにしてください。電子申請や年度更新申告書支援ツールを使用するときは、登録情報を入力して手続を進めてください。

また、企業側で管理している情報と登録情報が異なるときは、年度更新の封筒に記載されている管轄の都道府県労働局にお問い合わせください。

①労働保険番号

②申告済概算保険料額

③各種区分

④保険料率(今年は「32欄参照」と印字されています)

⑤口座振替 有無(口座振替の申込手続が完了しているときは印字されています)

⑥電子申請対象 有無(電子申請義務化の対象となる企業は印字されています)

⑦メリット制 有無(メリット制の適用となる企業は印字されています)

⑧雇用保険率

年度更新を効率よく対応するために

登録情報の確認

年度更新は、前年度4月1日から3月31日までの従業員の月ごとに支払うすべての賃金を集計することから始まります。給与ソフトで年度更新用の賃金を集計作業ができるものもありますが、入社日や退職日、雇用保険の加入有無、労働保険の対象となる賃金設定などに誤りがあると、正しい保険料計算ができません。毎月の給与計算を確実に行っていれば、急な対応を避けることができます

電子申請による申告書の提出

電子申請には、前年度の情報を取り込めたり、入力チェック機能や自動計算機能を効率よく使えるというメリットがあります。提出先である労働局や労働基準監督署の窓口に出向く必要もなく、申告書記入漏れや記入ミスも防止できます。

参考:厚生労働省『労働保険は電子申請』

保険料の口座振替

口座振替に手数料はかかりません。口座振替による納付で、毎回金融機関の窓口に行く手間や待ち時間が解消されます。納付漏れも防止でき、延滞金の心配がありません。納付期限についても、納付書で保険料を納付するよりも、保険料の引き落としに最大2か月のゆとりができます。

参考・ダウンロード:厚生労働省『労働保険料は口座振替が便利です!』

その他保険に関すること

労災保険や社会保険に関する記事もリリースしていますので、こちらもご参照ください。

記事:「令和6年10月からの社会保険の適用拡大と、扶養範囲・手続きの流れについて解説します!」

記事:「中小建設業の社長さん! 労災の中小事業主等の特別加入制度を活用しましょう!」

記事:「建設業等業種別労災発生状況と労災申請のために会社が準備しておくこと」

まとめ

年度更新は毎年、必ずしなければいけない手続です。慌てないように、早めに必要な情報を集めるようにしてください。なお、建設業の場合は、一般的には令和5年度においても算定内訳の記入は必要ないため、雇用保険料率の変更以外は例年と大きく変わるところはありません。

申告期限の令和5年7月10日(月)は、労働保険料の計算だけではなく、納付期限でもあります。

納付が難しいときは管轄の労働局または労働基準監督署に相談し、分割などの対策を取るようにしましょう。期限までに納付ができず滞納の状態になると、延滞金などが発生することがありますので、計画的な手続をおすすめします。

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