中小建設業の社長さん! 労災の中小事業主等の特別加入制度を活用しましょう!
建設業は、高所作業や重機の操作など、危険が伴う仕事が多いです。そのため、労災事故が起きる可能性も高く、事故に備えて労災保険に加入することが重要です。
しかし、建設業には、事業主や一人親方と呼ばれる方々も多くいます。事業主や一人親方は、通常の労災保険の適用対象ではありません。つまり、労災保険に加入していないと、労災事故が起きても補償を受けることができません
そこで、事業主や一人親方が労災保険に加入できるようにするために、特別加入制度というものがあります。特別加入制度とは、厚生労働省が定めた条件を満たす中小事業主や一人親方が、自ら申請して労災保険に加入できる制度です。今回はこのうち「中小事業主等の特別加入」について解説していきます。
労災の特別加入制度とは
労災保険は本来、労働者の業務または通勤による災害に対して保険給付を行う制度ですが、労働者以外でも、その業務の実情、災害の発生状況などからみて、特に労働者に準じて保護することが適当であると認められる一定の方には特別に任意加入を認めています。これが、特別加入制度です。
労災特別加入の種類
労災の特別加入については労働者災害補償保険法第33条に規定されており、
- 中小事業主等
- 一人親方等
- 特定作業従事者
- 海外派遣者
が対象となっています。
第四章の二 特別加入
労働者災害補償保険法第三十三条
第三十三条 次の各号に掲げる者(第二号、第四号及び第五号に掲げる者にあつては、労働者である者を除く。)の業務災害、複数業務要因災害及び通勤災害に関しては、この章に定めるところによる。
一 厚生労働省令で定める数以下の労働者を使用する事業(厚生労働省令で定める事業を除く。第七号において「特定事業」という。)の事業主で徴収法第三十三条第三項の労働保険事務組合(以下「労働保険事務組合」という。)に同条第一項の労働保険事務の処理を委託するものである者(事業主が法人その他の団体であるときは、代表者)
二 前号の事業主が行う事業に従事する者
三 厚生労働省令で定める種類の事業を労働者を使用しないで行うことを常態とする者
四 前号の者が行う事業に従事する者
五 厚生労働省令で定める種類の作業に従事する者
六 この法律の施行地外の地域のうち開発途上にある地域に対する技術協力の実施の事業(事業の期間が予定される事業を除く。)を行う団体が、当該団体の業務の実施のため、当該開発途上にある地域(業務災害、複数業務要因災害及び通勤災害に関する保護制度の状況その他の事情を考慮して厚生労働省令で定める国の地域を除く。)において行われる事業に従事させるために派遣する者
七 この法律の施行地内において事業(事業の期間が予定される事業を除く。)を行う事業主が、この法律の施行地外の地域(業務災害、複数業務要因災害及び通勤災害に関する保護制度の状況その他の事情を考慮して厚生労働省令で定める国の地域を除く。)において行われる事業に従事させるために派遣する者(当該事業が特定事業に該当しないときは、当該事業に使用される労働者として派遣する者に限る。)
今回は中小事業主等の特別加入について解説していきますね。
中小事業主等の定義
まず下表の規模の事業であることが要件です。つまり、建設業であれば労働者300人以下となりますし、不動産業であれば労働者50人以下が要件です。
そして、その人数に当てはまる事業の事業主や、労働者以外で事業に従事する役員及び家族従事者等が「中小事業主等」に該当します。
中小事業主等特別加入の要件
中小事業主等が特別加入するためには下記の要件があります。
「中小事業主等特別加入」をする場合は、必ず労働保険事務組合に労働保険の事務処理を委託する必要がありますので、その点ご注意ください。
またその際には
中小事業主本人だけでなく、ほかの労働者以外の業務に従事する者も全員包括して特別加入の申請を行う必要があります。例えば社長のほかに役員がいたとして、社長は加入申請するけど役員は申請しない、ということは原則できません。
という点も注意する必要があります。
中小事業主等特別加入の手続き
特別加入申請書を労働保険事務組合を通じて、所轄労働基準監督署長(労働局)に提出します。申請書は、厚生労働省のホームページからダウンロードできます。
中小事業主等特別加入者の給付基礎日額
給付基礎日額とは、労災事故が起きた場合に支払われる給付金額の計算基準となるものです。
通常の労働者は、3カ月間の平均賃金から給付基礎日額を算出したり、賃金に率をかけて保険料が決まったりします。しかし、中小事業主等は賃金を受けているわけではありませんので、中小事業主等特別加入の場合は、事業主が自ら希望する額を申請し、労働局長が決定します。
給付基礎日額の金額は下表のとおり、3,500円~25,000円の間で選択できます。
中小事業主等特別加入者の保険料
中小事業主等特別加入者の給付基礎日額の項目でお伝えしたとおり、自ら申請した給付基礎日額から保険料算定基礎額が算定され、その数字にそれぞれの事業ごとに定められた保険料率を乗じた金額が保険料となります。
年間保険料 = 給付基礎日額 × 365日 × 事業ごとの保険料率
給付基礎日額が低い金額で申請すれば保険料が安くなりますが、その分休業補償等給付などの給付額も少なくなりま
すので、その点十分に留意した上で、適正な額を申請する必要があります。
例えば
建設事業(既設建築物設備工事業)の事業主が
給付基礎日額を3,500円と少なく設定した場合は、年間保険料は15,324円と安くなりますが、労災が発生し休業したときに受給できる額は少なくなります。
給付基礎日額を25,000円と高く設定した場合は、年間保険料は109,500円と高くなりますが、労災が発生し休業したときに受給できる額は大きくなります。
労災保険の対象となる範囲
業務災害
中小事業主等の特別加入は、あくまで労働者に準じて保護することが適当である業務中の負傷などに対して補償する制度です。
したがって、労働者と同様に建設事業主が現場で作業中に発生した事故による負傷等は対象になり得ますが、事業主の立場で行われる業務は対象となりません。たとえば法人などの執行機関として出席する株主総会、役員会、資金繰りなどを目的とした得意先の接待業務などにおいてのけがなどは、労災保険の対象とはならないことになります。
複数業務要因災害
事業主が同一でない二以上の事業における業務を要因とする傷病等が発生した場合であって、要件を満たしていれば、労働者と同様に保険給付が行われます。
通勤災害
一般の労働者と同様に取り扱われます。
建設業の中小事業主等特別加入のメリット・デメリット
中小事業主等が労災に特別加入するメリット及びメリットをまとめてみます。
建設業の中小事業主等特別加入のメリット
事業主等が現場に入ることができない、また仕事自体を受けることができないという事態を回避できます。
社長本人や役員及び家族従事者に現場で事故が発生するかもしれないという事態に備えることができます。
労働保険事務組合に労働保険業務を委託することで事務負担が軽減され、保険料額にかかわらず労働保険料の分納ができます。
建設業の中小事業主等特別加入のデメリット
当然ですが何も加入しない状態と比較しますと、労災保険料や事務組合ごとの年会費や手数料が発生します。
労災発生状況及び労災申請について
過去のブログにて、労災の業種別発生状況や労災申請のために会社が準備しておくべきことについてまとめていますので、こちらもご参照ください。
ブログ:建設業等業種別労災発生状況と労災申請のために会社が準備しておくこと
まとめ
建設業の事業主等は、労災事故によって大きな損失を被る可能性があります。また労災に加入していなことが、工事を受注する上での支障になることも考えられます。そのため、特別加入制度を利用して労災保険に加入することをおすすめします。
髙島社会保険労務士事務所では、労災特別加入制度におけるご相談にも対応しています。ご不明な点がございましたら、まずは一度お気軽にご相談ください。