あなたのまわりにも「成年後見制度」を求めている人がいるかもしれません
成年後見という制度を耳にしたことがありますでしょうか?成年後見制度とは、認知症、知的障害、精神障害などの原因により判断能力を欠く方について、申立てによって家庭裁判所が「後見開始の審判」を行い、本人を援助する人として成年後見人等を選任する制度です。
成年後見人は、後見開始の審判を受けた本人に代わって契約を結んだり、本人の契約を取り消したりすることができます。このように幅広い権限を持つため、後見人は本人の財産全体をきちんと管理して、本人が日常生活に困らないように十分に配慮していかなければなりません。
成年後見の業務は、社会保険労務士だけができる仕事ではありません。しかし、成年後見業務の中には、年金や介護といった社会保険労務士が得意とする分野が絡むことも多くあります。ですから、そうした専門知識を活かし、ビジネスというよりは社会貢献の一環として取り組んでいる社会保険労務士も多いのではないでしょうか。私自身そのような気持ちで、成年後見のお仕事をさせていただいています。
今回成年後見制度がどういったものか、簡単に説明させていただくことで、この制度の社会的認知度が少しでも高まればと思います。
成年後見制度の種類
判断能力を欠く方に代理人が選ばれますが、本人の判断能力に応じて「補助」「保佐」「後見」の3つがあります。
このように、成年後見制度における代理人の種類として「補助人」「保佐人」「成年後見人」がいますが、この記事内においてはこれらの者をまとめて「成年後見人等」と呼びます。
成年後見人等の主な仕事
被後見人の財産管理
世の中には認知症等により判断能力を欠くため、自分の財産を適切に管理することができないという方が少なからずいらっしゃいます。成年後見人等は、そういった方々の財産が無くなってしまって、本人が生活できない状態にならないようにサポートを行います。具体的には、被後見人の財産内容の正確な把握、年金の受領、必要な経費の支出といった出納の管理、預貯金の通帳や保険証書などの保管などを行います。
身上監護に関する法律行為
被後見人は、生活を継続していくうえで、治療や介護を受ける必要がありますが、その契約を自分で結ぶことができません。ですから成年後見人等は、本人に代わって、本人の生活や健康、療養等に関する法律行為を行います。例えば、被後見人の住居の確保及び生活環境の整備、施設等の入退所の契約、被後見人の治療や入院の際の手続などを行ったりします。
成年後見人等の責任
成年後見人等はその職務の重要性から、重い責任が課せられています。そのため成年後見人等に不正な行為、著しい不行跡、その他後見の任務に適しない事由があるときには、家庭裁判所が成年後見人等を解任することがあります。
解任の理由
解任の理由となるのは、例えば、成年後見人等が被後見人の財産を私的に借用、流用したりする行為や、成年後見人等としての信用、信頼を失墜させるような行為、成年後見人等の権限を濫用する行為、適切でない方法で財産を管理する行為等があった場合、または成年後見人等としての任務を怠った場合などです。
賠償責任
成年後見人等は、被後見人のために、十分な注意を払って、誠実にその職務を遂行する責任を負っていますので、故意又は過失により被後見人に損害を与えた場合には、賠償しなければなりません。
なお、悪質な場合は、業務上横領等の刑事責任を問われることもあります。
後見監督
後見監督とは、成年後見人等の仕事が適正になされているかどうかを確認するため、家庭裁判所が、成年後見人等に対して、定期的に報告を求めたり、調査を行うことです。
原則年1回の定められた月に、成年後見人等から家庭裁判所に報告し、きちんと成年後見人等の仕事ができているかチェックを受けます。
成年後見人等ができないこと
成年後見人等は本人に代わって、本人のために、財産管理や身上監護に関する法律行為を行います。しかし、そんな成年後見人等でもできないことがあります。ここでは、できないことの一部を紹介します。
身元保証人・身元引受人
病院への入院や介護施設への入所、アパートへの入居等の際に、身元保証人や身元引受人の署名が必要な場合があります。その際に、私が本人の成年後見人等であることを伝えると、当然施設側は身元保証人や身元引受人になってくれるものだと思われるケースがよくあります。結論から言いますと、成年後見人等は身元保証人や身元引受人になることはできません。これは成年後見人等が本人の代理人だからです。成年後見人等が自分自身の身元を保証するという矛盾が生じたり、成年後見人等が仮に立替払いをした時に、成年後見人等が本人に対して請求権を持つという「利益相反」が発生してしまうからです。
実際に施設に身元保証人として署名を求められたときは、成年後見人等は身元保証人になれないことなどを丁寧に説明し、身元保証人を成年後見人等に書き換えて、署名をさせていただくことが多いです。
医療同意
医療同意とは、例えば本人に手術が必要な時に、その手術に同意するか同意しないかということです。延命措置についての同意の有無なども含まれます。これも病院で求められることがありますが、成年後見人等には医療同意の権限は与えられていません。
成年後見制度を利用するには
成年後見制度を利用するためには、まず、後見開始、保佐開始、補助開始の審判を本人の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てる必要があります。
申立てに必要な書類等は、以下のとおりです。
- 申立書
- 申立手数料
- 登記手数料
- 郵便切手
- 戸籍謄本、住民票
- 成年後見に関する登記事項証明書
- 診断書 等
この他にも、必要に応じて資料を準備する必要があります。申立後の手続をスムーズに進めるために、各家庭裁判所でいつでも手続案内に応じており、手続に必要な資料等についてもご案内しておりますので、お近くの家庭裁判所にお問い合わせください。
申立て後、裁判所の職員が、申立人、後見人候補者、本人から事情を聞いたり、本人の親族に後見人候補者についての意見を照会することがあります。また、必要に応じ,裁判官が事情をたずねることもあります。そして本人の判断能力について、鑑定を行うこともあります。
社会保険労務士の取り組み
社会保険労務士は、介護保険に関する手続きを業務としていますし、また年金・医療・介護等の社会保険制度全般に関わっている唯一の専門士業です。その専門家の立場で、地域の事情に応じて成年後見制度に取り組んでいます。
詳しくは全国社会保険労務士会連合会ホームページにてご確認ください。
また私が所属する一般社団法人社労士成年後見センター富山におきましても、精力的に成年後見業務を行っています。成年後見制度について詳しく知りたいときは、こちらにもお気軽にご連絡ください。
まとめ
まずはこの「成年後見制度」というものがあることを多くの方に知っていただき、身近にいらっしゃる判断能力の低下でお困りの方が、一人でも多く救われるきっかけになればと考えています。私自身、これからも精一杯サポートしていきます。