リスク回避のためにも、従業員代表者は適切に選びましょう

目次

なぜ今「従業員代表者」を考えるのか?

従業員代表者の選定は、ある意味ものすごく基本的なことです。それだけに、会社においてやや軽んじられて大きなトラブルになるケースがあるように思います。

各会社において、従業員代表者が選定されていないわけではないのですが、問題としては、

・従業員親睦会の代表者が自動的に従業員代表者になっている

・そもそも従業員代表者が誰か知らない

・従業員代表者を会社が指名している

というケースが見受けられます。こういった状態はのちのち大きなトラブルに発展する可能性がありますので、正しい知識をもっておきたいところです。

従業員代表者をめぐる過去の送検事例及び裁判例

送検事例としては、令和4年6月に愛媛県松山労働基準監督署が青果仲卸業の会社及びその工場長を労働基準法第32条違反の疑いで書類送検した事例があります。同社が36協定を締結する際に、民主的な手続きをせずに労働者の過半数代表者を選出していたことがわかり、協定が無効であると判断しています。

裁判例としては、「トーコロ事件」(東京高判平成9年11月17日)があります。こちらは、親睦団体の代表者が自動的に従業員の過半数代表者となっている会社において、当該代表者と会社が締結した36協定の効力が否定された事例です。こちらの判決においては、従業員の過半数代表者が適法に選出されていると言うためには、その事業場の従業員に、選出される従業員が過半数を代表して36協定を締結することが適切かどうか判断する機会が与えられ、そしてその事業場の従業員の過半数が、その者を代表者として適切であると判断したと認められる民主的な手続きがとられていることが必要である、としています。

81C47082A2F95F8249256A57005AF21 (courts.go.jp)(裁判所:労働事件裁判例集)

従業員代表者とは

従業員代表者とは、法令上での「従業員の過半数を代表する者」を指します。

労使協定の締結は、原則として労働者の過半数で組織する労働組合と締結しますが、その労働組合がないときに選出するのが従業員代表者です。

法令で定められた方法で選出しなければ会社にリスクが生じるため、労務担当者は正しい知識を持っていただく必要があります。

従業員代表者の役割

従業員代表者は、労働組合がない企業の従業員の意見を取りまとめる役割です。就業規則を作成・変更したときに労働基準監督署へ届出時に添付する「意見書」への意見の記載なども行います。

労使の集団的合意が必要なときは、従業員代表者と企業が話し合いを行い、署名または記名・押印をして労使協定を締結します。

会社と従業員代表者が締結する労使協定等の例 

・時間外労働・休日労働に関する協定(36協定)

・就業規則の意見書 

・年次有給休暇の計画的付与

・賃金控除

・育児・介護休業の適用除外

・一斉休憩の適用除外 

・賃金の口座振込 など

余談ですが・・・「賃金口座振込」の労使協定締結されていますか?

賃金の口座振込の際には個別の同意が必要となっており、その旨労働基準法施行規則第7条の2に規定されています。

その点はすでに理解している経営者さんも多いと思いますが、さらに労使協定が必要なこともご存知でしょうか。厚生労働省労働基準局長より、賃金の口座振込を行うにあたっては労使協定を締結するよう通達が出ています

「口座振込み等を行う事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合と、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者と、次に掲げる事項を記載した書面又は電磁的記録による協定を締結すること。」(基 発 1128 第 4 号「賃金の口座振込み等について」より一部抜粋)

従業員の個別の同意はもらっているけど、労使協定は締結していない会社が結構見受けられます。どうぞご注意ください。

従業員代表者になれる人

従業員代表者は、正社員、契約社員、パート、アルバイトなど雇用形態にかかわらず、事業場の全従業員の過半数の支持を受ける従業員から選出されます。管理監督者や使用者が一方的に選出した従業員は、選出対象にはなれません。

・過半数を数えるときの人数には、パートや管理監督者も含める

・派遣社員は派遣元で含め、派遣先では含めない

・出向者は出向元・出向先双方で含める

・従業員代表者に、管理監督者がなることはできない

従業員代表者は「事業場単位」での選任が必要です。

原則として、同一場所にあるものは一つの事業場、場所的に分散しているものは別の事業場と考えられます。しかし工場内の診療所や食堂など、同じ場所にあっても労働の状態や業態が大きく異なっているときは、別の事業場となります。

また別の場所にあっても、規模が小さいときや一つの事業場としての独立性がないときは、組織的な関連や事務能力などを勘案し、直近上位の事業場とまとめて一つの事業場として扱います。 

従業員代表者の選出方法

従業員代表者の選出方法には法令上の定めがあり、労使協定に規定する内容を明確にして選出をしなければなりません

そのうえで、従業員の話し合いや選挙による投票、持ち回りなど、従業員の過半数から支持されていることが明確な、民主的な方法で選出を行う必要があります。

使用者が「従業員代表者は〇〇さんで進めてほしい」など選出に意見を述べたり、使用者の意向に沿って選出されたときは、適切に選出されていないと判断されるようです。

使用者は選任された従業員代表者がスムーズに役割を遂行できるよう、社内のインターネットの使用や事務機器の貸与、事務スペースの提供などの配慮を行う必要があります。

また従業員代表者になろうとした者、従業員代表者として正当な行為をした者に対し、賃金の減額や降格などの不利益な取扱いをしてはいけません。

挙手等の方法でも認められますが、従業員代表者であることを否定されると、かなり大きな影響が出る場合もあります。個別に署名捺印をもらうなど、従業員代表者として各従業員が個別に信任している旨書面に残すことを、個人的にはおすすめしています。

従業員代表者の任期

特に法律上の定めはありません。

一般的には36協定の更新期間に合わせて、1年とするケースが多いようですが、2年等の期間を定めた場合に法律上即問題があるということでは無いようです。

適正に従業員代表者が選出されていないときのリスク

労使協定が適正に締結されることにより、会社は法令等違反についての罰則を免除されます。

労使協定が適正に締結されていないと評価されるケースの多くが、「適正に労働者代表者が選出されていない」です。つまり、適正に従業員代表者を選出しないこと自体についての罰則はありませんが、適正に従業員代表者を選出していなければ労使協定が無効となり、結果として会社は何らかの罰則を受ける結果になってしまいます。

なお、労使協定を締結できる内容は無制限ではありません。労使協定の締結によって法令上の制限をなくすことができる事項は、法令等で定められたものに限られます。

36協定が無効になったとき

労働基準法違反:罰則6か月以下の懲役または30万円以下の罰金

労働基準法上、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えての労働(時間外労働)や、休日労働(法定休日労働)はできないと定められており、違反すると上記の罰則が適用される可能性があります。

しかし36協定(労使協定)を締結すれば、法定労働時間を超えて労働させたとしても罰則の適用が免除されます。しかし締結時の従業員代表者の選出が不適切であったと判断されたり、限度時間(月45時間、年間360時間)を超える36協定は無効となり、罰則が適用されます。  

※36協定は労使協定を締結後、管轄の労働基準監督署へ届出が必要です。

他にも影響が大きいと予想されるのが、1年単位の変形労働時間制等の変形労働時間制に関する労使協定です。適正に就業のスケジュールを組んで労使協定を締結・届出することにより、通常の1日8時間週40時間の枠を超えて労働させたとしても、割増賃金の対象とならない場合がありました。しかし、適正な従業員代表者の選定をしていないということで、労使協定が無効になれば、適正に労使協定が労働基準監督署に届出されていないということで、30万円以下の罰金となる可能性がありますし、さらに1日8時間週40時間を超える時間全てに割増賃金が発生することとなり、予測しない出費が生じる可能性があります

従業員代表者と締結した労使協定の効力はどこまであるのか

労使協定の効力は「免罰効果」に留まります。

免罰効果とは、法令違反があったとしても「罰則は適用しない」ということです。

36協定を締結したからといって、当たり前のように残業命令ができるわけではありません。実際に残業命令をするためには、個別の契約で同意をとるか、就業規則に「労使協定に定めた範囲内の時間で残業をさせることがある」などの定めを設ける必要があります。

まとめ

労働組合がない会社にとって、従業員代表者の選出は労使協定を締結するうえで必要です。そのため、会社が優位に労使協定を結べるように、従業員代表者を指名して選出しているケースが見受けられます。

しかし労使協定は、従業員の労働環境に影響を及ぼす大切な取り決めです。従業員が安心して働ける職場づくりのためにも、従業員代表者を適正に選出し、従業員側からの意見を反映できるような体制づくりをおすすめします。

そして、従業員代表者の選定は、さまざまな労務管理の根幹をなすものと言っても過言でありません。従業員代表者の選定が適正ではないと判断されると、会社側に予想もしなかった大きな負担が発生することもありえます。経営者及び労務担当者の方々はその点十分にご理解いただき、その決して小さくないリスクを回避するために、適切な手続きを踏んでいただくようお願いします。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次