2026年度法改正対応:労務担当者の準備ポイントと実務の要点

2026年度は、人手不足を背景に「多様な働き方を支える制度整備」が進む一方、労働安全衛生分野では安全配慮と健康管理の強化が求められます。個人事業者を含む混在作業場所での安全対策、化学物質管理、高年齢労働者の災害防止、治療と仕事の両立支援など、企業実務に直結する改正が目白押しです。

本記事では、施行日ごとの要点と、社内制度・運用の見直しで押さえるべき対応を整理します。

目次

2026年度法改正の概要と企業が行うべき対応

2026年度の法改正では、少子高齢化・人口減少に伴う人手不足を背景に、働き方の多様化を支える制度整備が進みます。一方で、労働安全衛生分野の改正により、企業にはこれまで以上に安全配慮と健康管理が求められます。
労務担当者は改正のポイントを早期に把握し、社内制度や運用(周知・書式・教育・システム設定等)を施行日から逆算して整えることが重要です。

労働安全衛生法および作業環境測定法

多様な人材が安全かつ安心して働き続けられる職場環境の整備を推進するため、必要な措置を講じることが目的です。

1 個人事業者等の安全衛生対策の推進

今後は、従業員だけでなく同一の場所において作業を行う個人事業者等(※)も、労働安全衛生法における保護の対象や義務の主体となります。個人事業者等の労働災害の防止を図るため、以下の①②が施行されます。
※事業を行う者で従業員を使用しない個人事業者のほか、中小企業の事業主や役員も対象

① 混在作業場所における元方事業者等への措置義務対象の拡大(2026年4月1日施行)

➡ 企業としては、現場の入構者・作業者の把握方法、ルールの周知、危険情報の共有の仕組みなど、現場運用を点検しておくことが重要です。

② 業務上災害報告制度の創設(2027年1月1日施行)

➡ 施行に備え、社内の事故・ヒヤリハット報告の流れや、外部作業者を含めた情報収集の方法を整理しておくとスムーズです。

過去にも労働安全衛生法の改正について解説しています。こちらもあわせてご覧ください。
記事:一人親方も対象に!2025年4月に施行される新しい労働安全衛生法とは?

2 化学物質による健康障害防止対策等の推進

国内で輸入・製造・使用されている化学物質は数万種類に上り、危険性や有害性が十分に解明されていない物質も多数存在します。そのため、化学物質を取り扱う従業員の健康障害の防止対策は重要なテーマとなっています。

① 営業秘密である成分に係る代替化学品名等の通知(2026年4月1日施行)

➡ SDS(安全データシート)など、化学物質の危険性・取扱い注意をまとめた資料の提供・保管体制、現場への伝達方法の確認がポイントになります。

② 個人ばく露測定の精度担保(2026年10月1日施行)

➡ 測定の実施体制、外部機関との連携、測定結果の保存・活用(教育・保護具選定等)まで含めて運用を整えておくと安心です。

3 特定機械等の製造許可および製造時等検査制度の見直し(2026年4月1日施行)

特定機械等(ボイラー、クレーンなど)に義務付けられている製造許可や製造時等検査について、民間の登録機関が実施できる範囲が拡大されます。

(出典)厚生労働省『労働安全衛生法及び作業環境測定法改正の主なポイントについて』P3(一部抜粋して掲載)

➡ 自社で該当設備があるかの棚卸し、点検・検査のスケジュール管理、依頼先(登録機関)の選定・見直し、検査記録・証憑の保管ルール(監督署対応も含む)まで整理しておくと安心です。

4 高年齢労働者の労働災害防止の推進(2026年4月1日施行)

高年齢者の労働災害を防止するため、必要な措置を講じることが努力義務となります。企業は、厚生労働大臣が公表した当該措置に関する指針に基づき取り組みを行います。

➡ 高年齢労働者が多い部署・作業の洗い出し、転倒・墜落等のリスク点検、作業負担の軽減(動線・手すり・照明・重量物等)、教育・周知(安全手順、体調申告)を“形だけでなく運用”まで落とし込むことがポイントです。

労働施策総合推進法

職場における治療と仕事の両立を支援するための措置(2026年4月1日施行

治療が必要な疾病等を抱える従業員が、治療と仕事を両立するためには、企業による受け入れ環境の整備が重要です。2026年4月以降は、職場における治療と仕事の両立を支援するための措置を講じることが努力義務となります。
この措置を適切かつ有効に実施するため、厚生労働大臣より指針が公表される予定です。今後、企業はこの指針に基づいた取り組みを行う必要があります。

➡ 申出窓口(誰に相談するか)の明確化、就業上の配慮メニュー(時差・短時間・通院配慮・配置転換等)の整理、主治医意見等の取り扱いルール(同意・範囲・保管)、上司・人事の対応フロー(面談→決定→フォロー)を整えておくと実務が回ります。

年金制度改正法

2025年6月、社会や経済の変化に対応し年金制度の機能向上を図ることを目的として、年金制度改正法が成立しました。本記事では2026年度施行分を中心に解説しますが、同法は2027年度以降も順次施行される予定です。

1 在職老齢年金の支給停止となる基準額の引上げ(2026年4月1日施行)

在職老齢年金制度は、働きながら年金を受給する高齢者のうち一定額を超える収入がある場合、年金の一部または全部が支給停止となる制度です。この支給停止の基準となるのが「支給停止調整額」です。
2025年度の支給停止調整額は「51万円」ですが、2026年4月からは「65万円」と大幅に引き上げられます。この大幅な引き上げにより、老齢厚生年金の受給額の減額を気にせず働ける従業員が増えると予想されます。その結果、高齢者の働き控えが緩和され、人手不足の解消につながることが期待されています。

(出典)厚生労働省・日本年金機構『年金の減額を意識せずより多くの収入を得られるようになります!』(一部抜粋して掲載)

➡ 在職で年金を受給している従業員に、基準額引上げの概要を周知し、問い合わせ窓口を決めておくと十分です。

2 社会保険適用拡大に伴う就業調整を減らすための支援(2026年10月1日施行)

新たに社会保険の加入対象となる短時間労働者への支援制度が実施されます。短時間労働者が負担する社会保険料の一部を企業が負担することで、短時間労働者の社会保険料負担を特例的・時限的に軽減します。その後、企業が負担した社会保険料の増加分については、その全額が支援されます。

➡ 適用対象となり得る短時間労働者の抽出、勤務シフト・契約更新時の説明(就業調整の抑制)、給与計算・社会保険料の設定確認、会社負担分の管理方法(会計・集計)まで、制度開始前に段取りしておくことがポイントです。

子ども・子育て支援法、健康保険法

子ども・子育て支援金制度2026年4月1日施行)

すべての世代や企業が医療保険料とともに子ども・子育て支援金(以下、支援金)を負担し、その財源で子育て世帯の支援を行う仕組みとして「子ども・子育て支援金制度」が開始されます。

徴収の対象者

子どもの有無にかかわらず、医療保険制度の加入者から支援金が徴収されます。つまり、企業で加入する被用者保険だけでなく、国民健康保険や後期高齢者医療制度の加入者も対象です。

支援金額(2026年度)

企業の社会保険に加入している被保険者から徴収する支援金額は以下のとおりです。給与だけでなく賞与が支給された場合も徴収が必要であり、原則被保険者と事業主とで折半します。

なお、支援金は健康保険法上の保険料として位置づけられました。そのため企業は、健康保険料・介護保険料と合わせて支援金を徴収することとなります。

開始時期

2026年4月分の社会保険料より徴収開始します。

子ども・子育て支援金の使途

支援金は、児童手当の拡充、妊婦のための支援給付、こども誰でも通園制度(就労要件を問わず時間単位等で柔軟に利用できる新たな通園給付)などの子育てに関する施策に充てられます。
「子ども・子育て支援金制度」の詳細については、今後公開の記事で解説予定です。

給与・賞与からの控除(折半)に関する社内周知給与明細の表示や控除項目の確認給与計算システムの設定・検証問い合わせ対応(なぜ引かれるのか/いつからか)用の説明文を事前に準備しておくと、混乱を避けられます。

女性活躍推進法

女性活躍推進法は2026年3月31日までの時限立法として制定されました。しかし、日本の男女間賃金格差は、長期的には改善傾向にあるものの、国際水準と比べると依然として大きいのが現状です。そのため、女性の活躍を一層後押しする継続的な取り組みが必要とされ、有効期限が2036年3月31日までに延長されました。

期限延長・公表義務の拡大(2026年4月1日施行)

2026年度より、従業員数101人以上の企業に対して、「男女間賃金差異」および「女性管理職比率」の公表が義務化されます。これまで従業員数301人以上の企業に限られていた賃金差異の公表範囲が拡大されるとともに、管理職比率も新たに必須項目となります(なお、従業員数100人以下の企業は努力義務です)。

(出典)厚生労働省『ハラスメント対策・女性活躍推進に関する改正ポイントのご案内』P2(一部抜粋して掲載)

➡ 対象企業かの判定(常用労働者数等)、算定に必要なデータ整備(賃金・雇用区分・管理職定義)、公表手段(自社HP等)と更新頻度の決定、数字の背景説明(改善方針)までセットで用意すると、形式対応で終わりません。

障害者雇用促進法

障害者の法定雇用率引き上げ(2026年7月1日施行

民間企業における障害者の法定雇用率が、現行の2.5%から2.7%に引き上げられます。これにより、2026年7月1日以降、従業員数37.5人以上の企業が障害者の雇用義務の対象となります。企業には雇用の確保だけでなく職場定着に向けた支援も求められるため、労務担当者は早期の体制整備を進める必要があります。

➡ 自社の対象判定と不足人数の把握、採用計画(求人・紹介・実習等)の前倒し、職域の切り出しと合理的配慮の整理、定着支援(面談・支援機関連携)まで含めて体制を整えるのがポイントです。

被扶養者認定における取扱いの変更

被扶養者認定における取扱い変更(2026年4月1日適用

健康保険の被扶養者認定における取扱いが一部変更となります。
これまでは、残業代により年間収入を上回って扶養から外れてしまうことを避けるため、被扶養者が就業調整(働き控え)するケースが多く見受けられました。今回の取扱いの変更はこうした就業調整対策の一環であり、今後は労働契約の内容から見込まれる年間収入に基づいて扶養認定が行われます。そのため、労働条件通知書等に明確な定めがなく予測が難しい残業代等については、年間収入の見込額に含める必要がなくなります


扶養の認定を受けようとする方(以下、認定対象者)について、「労働契約で定められた給与・賞与などの賃金に基づく年間収入の見込額が130万円未満、かつ他の収入が見込まれない」という場合、被扶養者認定における年間収入の判定は以下の図のようになります(労働契約の内容は、労働条件通知書等の書類により確認)。

なお、認定対象者が以下のいずれかに該当する場合、「130万円未満」をそれぞれ読み替えて対応してください。
・60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害を有する場合:180万円未満
・扶養認定日が属する年の12月31日時点の年齢が19歳以上23歳未満(被保険者の配偶者を除く)の場合:150万円未満

➡ 労働条件通知書等の記載の明確化(所定・手当・賞与の見込み)、扶養に関する問い合わせ対応の整理、年収見込みの説明手順(誰が何を示すか)、パート・短時間者の就業調整相談への対応方針を準備しておくと、現場の説明負担が下がります。

まとめ

2026年度以降の法改正は、単なる制度変更の積み重ねではなく、企業に「多様な人材が安心して働き続けられる職場づくり」を求める流れを一段と強めます。安全衛生では、個人事業者を含む現場全体でのリスク管理や化学物質管理の高度化、高年齢労働者の災害防止など、職場の安全・健康管理を“仕組みとして回す”ことが重要になります。あわせて、治療と仕事の両立支援、女性活躍の情報公表、障害者雇用の拡大、社会保険制度の見直しも進み、労務は「周知・運用・データ整備」まで含めた対応力が問われます。

施行日への対応にとどまらず、日々の業務に落とし込みながら、無理なく続く体制整備を意識して進めていきましょう。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次