入社・退職時に注意したい「同月得喪」と「同日得喪」の違い

社会保険における「得喪(とくそう)」とは、被保険者資格の取得と喪失を指す実務上の用語です。
得喪に関する用語として、「同月得喪(どうげつとくそう)」と「同日得喪(どうじつとくそう)」があります。名称はよく似ていますが、発生する場面、社会保険料の取扱い、必要な手続きは大きく異なります。
今回は、社会保険における「同月得喪」と「同日得喪」の違いと、実務上の注意点を解説します。
社会保険の「同月得喪」とは
同月得喪とは、同じ月の中で、社会保険の被保険者資格を取得し、その資格を喪失することをいいます。
例えば、4月1日に入社して社会保険に加入した従業員が4月20日に退職した場合、資格取得日は4月1日、資格喪失日は退職日の翌日である4月21日です。資格取得日と資格喪失日がいずれも4月にあるため、同月得喪となります。

一方、4月1日に入社し、4月30日に退職した場合、資格喪失日は翌日の5月1日です。資格取得月は4月、資格喪失月は5月となるため、同月得喪にはなりません。

資格喪失日は「退職日の翌日」
社会保険の資格喪失日は、原則として退職日の翌日です。
そのため、同月得喪に該当するかどうかは、退職日ではなく、資格取得日と資格喪失日が同じ月にあるかどうかで判断します。日本年金機構も、退職日と資格喪失日を混同しないよう注意を促しています。
入社した月の月末に退職した場合は、「同月得喪」とはならない。
社会保険料の原則的な取扱い
健康保険料と厚生年金保険料は、原則として1か月単位で計算されます。月の途中で資格を取得・喪失した場合でも、日割計算は行いません。
事業主は、従業員の給与から被保険者負担分を控除し、事業主負担分と合わせて、対象月の翌月末日までに納付します。
月の途中で資格を取得した場合
資格取得日が月の途中であっても、資格取得月の1か月分の社会保険料が発生します。
例えば、4月20日に資格を取得した場合でも、4月分の健康保険料・厚生年金保険料は日割りではなく、原則として1か月分となります。
月の途中で資格を喪失した場合
原則として、資格喪失日の属する月の社会保険料は発生せず、その前月分までが徴収対象となります。
例えば、5月15日に退職した場合、資格喪失日は5月16日です。この場合、社会保険料は4月分まで発生し、5月分は発生しません。
ただし、5月31日に退職した場合は、資格喪失日が6月1日となるため、5月分の社会保険料も発生します。

同月得喪における社会保険料の取扱い
通常は、資格喪失日の属する月の社会保険料は発生しません。
しかし、同月得喪の場合は例外的に、資格取得月の健康保険料・厚生年金保険料が発生します。
例えば、4月1日に資格を取得し、4月21日に資格を喪失した場合、月末時点ではすでに被保険者ではありませんが、同月得喪に該当するため、原則として4月分の社会保険料を納付しなければなりません。

ただし、厚生年金保険料については、資格喪失後の状況により、後日還付されることがあります。
同月得喪後の厚生年金保険料
同月得喪により厚生年金保険料を納付した後、資格を喪失した人が同じ月のうちに次のいずれかに該当した場合、同月得喪した事業所における厚生年金保険料は原則として不要となります。
【同月得喪した事業所における厚生年金保険料が不要となるケース】
1. 他社に再就職するなどして、同じ月に新たに厚生年金保険の資格を取得した場合
2. 同じ月に国民年金第1号被保険者または第3号被保険者となった場合
この場合、同月得喪した事業所における厚生年金保険料は納付不要となり、すでに納付している場合は、被保険者負担分・事業主負担分の双方が事業所に還付または調整されます。
厚生年金保険料の還付の流れ
一般的には、次のような流れとなります。
【厚生年金保険料の還付の流れ】
1. 事業所が、同月得喪分の厚生年金保険料をいったん納付する
2. 日本年金機構が、同じ月の再就職や国民年金加入の事実を確認する
3. 日本年金機構から事業所に還付・充当関係の通知が届く
4. 事業所が、還付または今後の保険料への充当を受ける
5. 事業所が、還付された被保険者負担分を退職者本人へ返金する
事業所に還付される金額には、事業主負担分だけでなく、給与から控除した被保険者負担分も含まれます。このため、事業所は被保険者負担分を退職者本人に返金する必要があります。
また、社会保険料の返金により、その年の社会保険料控除額が変わる場合には、給与計算や源泉徴収票の訂正が必要になることがあります。

最初から厚生年金保険料を控除しない方法は慎重に
本人が同じ月に他社へ再就職することが確実である場合などには、還付を見越して、同月得喪した厚生年金保険料を給与から控除しない運用も考えられます。
ただし、日本年金機構による確認や還付には一定の期間を要します。また、本人が予定どおり再就職しない場合や、国民年金の資格取得手続きが確認できない場合には、還付対象とならない可能性があります。
したがって、原則どおり一度控除・納付したうえで、還付後に本人へ返金する方法が、確実な実務処理といえます。
同月得喪後の健康保険料
健康保険料は、厚生年金保険料とは取扱いが異なります。
同月得喪後、同じ月に他社の健康保険や国民健康保険などに加入した場合でも、同月得喪した事業所の健康保険料は還付されません。
そのため、同じ月について、同月得喪した事業所の健康保険料と再就職先または国民健康保険等の保険料の両方が発生する場合があります。協会けんぽも、資格取得日と資格喪失日が同じ月にある場合は、その月分の保険料が必要であり、還付はないと案内しています。
【同じ月に、下記両方が発生する場合】
・同月得喪した事業所の健康保険料
・再就職先または国民健康保険等の保険料
介護保険料・子ども・子育て支援金について
介護保険第2号被保険者に該当する場合の介護保険料および子ども・子育て支援金についても、健康保険料と同様に還付されません。
そのため、同じ月について、同月得喪した事業所と新たな加入先の双方で、介護保険料や子ども・子育て支援金など、該当する保険料等が発生することがあります。
社会保険の「同日得喪」とは
同日得喪とは、60歳以上の社会保険被保険者がいったん退職し、1日も空けずに同じ会社へ再雇用された場合に、資格喪失届と資格取得届を同時に提出する取扱いです。
例えば、3月31日付で退職し、4月1日付で再雇用された場合は、
・資格喪失日:4月1日
・再雇用による資格取得日:4月1日
となります。
資格喪失日と資格取得日が同じ日になるため、「同日得喪」と呼ばれています。
日本年金機構は、60歳以上の被保険者が退職後1日の空白もなく継続再雇用された場合、使用関係がいったん中断したものとみなし、資格喪失届と資格取得届を提出できる取扱いを認めています。定年退職に限らず、60歳以後にいったん退職し、継続して再雇用された場合が対象です。
同日得喪を行うメリット
60歳以降の継続再雇用では、賃金が大きく引き下げられることがあります。
通常、固定的賃金が変更された場合でも、随時改定の要件を満たすまでは、従前の標準報酬月額が適用されます。随時改定では、変更後の報酬を初めて受けた月から起算して、原則として4か月目から標準報酬月額が改定されます。
一方、同日得喪を行えば、再雇用された月から、再雇用後の給与に基づく標準報酬月額が決定されます。
例えば、再雇用前の標準報酬月額が50万円で、再雇用後の報酬月額が大きく低下した場合、同日得喪を行うことにより、再雇用月から再雇用後の報酬月額に応じた標準報酬月額が適用されます。

その結果、再雇用後の給与が大きく下がる場合には、健康保険料・厚生年金保険料の負担を早い段階から軽減できます。
同日得喪の注意点
同日得喪には、社会保険料を早く引き下げられるメリットがありますが、次の点にも注意が必要です。
傷病手当金などの給付額に影響する可能性がある
傷病手当金の支給額は、原則として支給開始日前12か月間の標準報酬月額の平均額を基礎に計算されます。
同日得喪により標準報酬月額が下がると、その後に傷病手当金を受給する場合の金額が低くなる可能性があります。
将来の厚生年金額に影響する
厚生年金の報酬比例部分は、被保険者期間中の標準報酬月額や標準賞与額などを基礎として計算されます。
したがって、同日得喪により低い標準報酬月額が早く適用されれば、その期間については、従前の高い標準報酬月額が適用され続けた場合と比べて、将来の厚生年金額が低くなる可能性があります。
もっとも、再雇用後の実際の給与に応じた標準報酬月額へ切り替える制度であるため、単純に「同日得喪を行うと年金で損をする」と評価するのではなく、現在の保険料負担と将来の給付への影響を総合的に検討することが重要です。
資格確認書等の返却が必要になる
資格確認書、高齢受給者証、限度額適用認定証などが交付されている場合は、資格喪失届に添付して返却する必要があります。
再雇用後も資格確認書が必要な場合は、資格取得届の「資格確認書発行要否」欄で、発行が必要である旨を届け出ます。
単なる給与の引下げは同日得喪の対象にならない
同日得喪を行うためには、形式だけでなく、実際にいったん退職し、新たな雇用契約によって継続再雇用されたことが必要です。
雇用契約を継続したまま、契約期間の途中で給与だけを引き下げた場合は、退職後の再雇用ではありません。この場合は同日得喪の対象とはならず、通常の随時改定または定時決定によって標準報酬月額を変更します。
また、書類上だけ退職・再雇用の形式を整えていても、退職の事実や新たな労働契約の締結が客観的に確認できない場合には、同日得喪として認められない可能性があります。日本年金機構も、退職と再雇用を確認できる書類の添付を求めています。
同日得喪の手続き
同日得喪を行う場合は、原則として次の2つの届書を同時に提出します。
【届出書類】
・健康保険・厚生年金保険 被保険者資格喪失届
・健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届
健康保険組合に加入している事業所は、健康保険組合にも必要な手続きを確認してください。
添付書類
退職後、継続して再雇用されたことを確認する書類として、次の「1と2の両方」または「3」の書類を添付します。
【添付書類】
1. 就業規則、退職辞令の写しなど、退職日を確認できる書類
2. 雇用契約書、労働条件通知書の写しなど、継続再雇用を確認できる書類
3. 「退職日」および「再雇用された日」が記載された、継続再雇用に関する事業主の証明書
3の事業主証明については、日本年金機構が参考様式を用意していますが、様式の指定はありません。電子申請の場合は、これらの添付書類をPDF形式またはJPEG形式の添付データとして提出できます。
資格確認書等が交付されている場合
協会けんぽに加入している場合、本人または被扶養者に次の書類が交付されていれば、資格喪失届に添付して返却します。
・資格確認書
・高齢受給者証
・特定疾病療養受療証
・限度額適用認定証
・限度額適用・標準負担額減額認定証
資格確認書を紛失するなどして回収できない場合は、「健康保険資格確認書回収不能届」を提出します。
再雇用後も資格確認書の交付が必要な場合は、資格取得届の「資格確認書発行要否」欄で「発行が必要」にチェックを入れます。
役員の場合
役員について同日得喪を行う場合は、役員規程、取締役会議事録、株主総会議事録など、役員を退任したこと、および再雇用または再任されたことを確認できる書類を添付します。
届出先・届出方法
届出先は、事業所を管轄する年金事務所または事務センターです。
提出方法は、電子申請、郵送または年金事務所の窓口への持参となります。
参考:日本年金機構『60歳以上の方を、退職後1日の間もなく再雇用したとき』
被扶養者がいる場合
同日得喪を行うと、本人について資格喪失と資格取得が行われます。
再雇用後も家族を引き続き被扶養者とする場合は、「健康保険被扶養者(異動)届」の提出が必要です。
また、被扶養配偶者が国民年金第3号被保険者の要件を満たす場合は、国民年金第3号被保険者関係届も併せて提出します。
「同月得喪」と「同日得喪」の違い
同月得喪は、入社後すぐに退職した場合など、資格取得日と資格喪失日が同じ月にある状態です。本人の年齢は問いません。
一方、同日得喪は、60歳以上の被保険者が退職後、1日も空けずに同じ会社で再雇用された場合に、資格喪失日と再取得日を同じ日として届け出る取扱いです。
同月得喪では、健康保険料と厚生年金保険料の取扱いが異なる点が特に重要です。
同日得喪では、再雇用後の給与に応じた標準報酬月額を再雇用月から適用できる一方、保険給付や将来の年金額への影響も考慮する必要があります。
過去の記事
他にも過去に社会保険に関する記事を書いていますので、こちらもご参照ください。
記事:社会保険の扶養手続き/被扶養者の認定基準と実務の流れを解説 – 髙島社会保険労務士事務所
おわりに
社会保険の同月得喪と同日得喪は、名称は似ていますが、発生する場面と手続きは全く異なります。
特に同月得喪では、厚生年金保険料が後日還付される場合がある一方、健康保険料は原則として還付されません。退職後の加入状況を確認するとともに、還付された被保険者負担分を本人へ確実に返金することが重要です。
また、同日得喪では、再雇用後の社会保険料を速やかに実態に合わせられますが、実際の退職・再雇用の事実と、それを確認できる書類が必要です。
事業主や労務担当者は、資格取得日、退職日、資格喪失日、再雇用日を正確に確認したうえで、それぞれの制度に応じた手続きを行いましょう。
