介護制度改正:介護休業制度の要介護状態判断基準の見直しと、2025年4月施行の新企業義務

介護を必要とする状況は多様化しており、少子高齢化の進行による高齢者介護はもちろん、障害児・者や医療的ケア児・者を介護する必要性も高まっています。

こうした状況から、家族の介護によって離職を余儀なくされる従業員も多く発生しており、今回の法改正により対策が講じられることとなりました。

制度変更の内容と、介護離職防止に向けた事業主の対応について解説します。

目次

介護による従業員の離職問題

総務省が公表した「令和4年就業構造基本調査」によると、介護等による離職者は、2022年の1年間で10.6万人に上り、毎年10万人前後となります。

仕事をしながら介護をする従業員、いわゆるビジネスケアラーは、高齢化の進行により2030年には約318万人になると見込まれ、今後も多くの介護離職者が発生する可能性があります。

出典:経済産業省『経済産業省における介護分野の取組について』P3

介護休業制度の「要介護状態」の判断基準の見直し

現在、介護休業制度の対象となる「要介護状態」は、育児・介護休業法第2条第3号及び施行規則第2条により「負傷、疾病又は身体上若しくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態」とされています。

この基準は、もともと特別養護老人ホームの入所基準を参考に策定されたものでしたが、介護保険制度の要介護認定との整合性を考慮し、2016年(平成28年)に要介護2以上を基準とする見直しが行われました。

しかしながら、この基準では障害児や医療的ケアを必要とする場合に適用が難しく、判断が曖昧になるケースが指摘されていました。そこで、新たな基準が導入されることとなりました。

制度見直しの経緯

育児・介護休業法に基づく介護休業制度は、当初高齢者介護を主な対象として設計されていました。しかし、障害のある子どもや医療的ケアを必要とする家族の介護も増加し、それらのケースに適用する際の解釈が難しいとの課題が浮き彫りとなりました。

これを受け、労働政策審議会の建議や衆参両院の附帯決議を経て、より幅広い状況に対応できるよう介護休業の判断基準が見直されることとなりました。今回の改正では、障害児・者や医療的ケア児・者の介護を行う労働者も利用しやすくするための基準の明確化が図られています。

新たな「常時介護を必要とする状態」の判断基準

新基準では、以下のいずれかに該当する場合に「常時介護を必要とする状態」と判断されます。

  1. 項目評価基準 :以下の12項目のうち、「2」の状態が2つ以上、または「3」の状態が1つ以上該当し、かつその状態が継続すると認められること。
  2. 要介護認定 :介護保険制度の要介護状態区分において要介護2以上であること。

詳細は下記資料をご参照ください。赤字分が今回の改正箇所です。なお、この新たな判断基準は2025年4月1日から適用されます。

出典:厚生労働省雇用環境・均等局「介護休業制度等における「常時介護を必要とする状態に関する判断基準」の見直しに関する研究会報告書」P.6・7

出典:厚生労働省雇用環境・均等局「介護休業制度等における「常時介護を必要とする状態に関する判断基準」の見直しに関する研究会報告書」

政府の取り組み

政府は、介護離職防止のため、仕事と介護の両立支援制度の強化を推進しています。その内容を見ていきます。

介護休業・介護両立支援制度等

介護休業・介護両立支援制度等とは、仕事をしながら家族の介護をしている従業員を支援する制度です。育児・介護休業法等により定められ、原則として対象となる家族の介護や世話をするすべての従業員が対象です。(一部対象外の従業員を除く)

介護に直面した従業員がこの制度を活用することにより、離職防止につながることが期待されます。

参考:厚生労働省『仕事と介護の両立 ~介護離職を防ぐために~』

2025年4月、育児・介護休業法の改正

2025年4月1日に育児・介護休業法が改正されます。(一部、2025年10月1日改正)

仕事と育児・介護を両立しやすくするため、仕事と育児・介護の両立支援制度の見直しや雇用環境のさらなる整備の義務化が施行されます。

このうち、介護に関する「介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化等」は、以下の4つです。

①介護離職防止のための個別の周知・意向確認等

介護に直面した旨の申出をした従業員に対し、介護休業・介護両立支援制度等の個別周知と意向確認を行う必要があります。

また、従業員が介護に直面する前に、介護休業・介護両立支援制度等の理解を深めることができるよう、早い段階で介護休業・介護両立支援制度等について情報提供を行います。

②介護離職防止のための雇用環境整備

介護両立支援制度を利用しやすくするため、一定の措置の中から1つ以上の措置を講じる必要があります。

③介護休暇を取得できる従業員の要件緩和

労使協定により介護休暇の適用除外にできる従業員の要件が緩和されます。今後、適用除外にできるのは「週の所定労働日数が2日以下の従業員」のみとなります。(「継続雇用期間6か月未満の従業員」の除外規定は廃止

現在、継続雇用期間6か月未満の従業員を介護休暇の適用除外としている場合、就業規則等や労使協定の見直しが必要になります。

④介護のためのテレワーク導入

対象となる家族を介護する従業員に対し、介護のためのテレワークを選択できる措置を講じることが努力義務化されます。内容や頻度など法令等上の定めはありません。業種・職種等により対象者を限定することも可能です。

この措置を導入する場合、就業規則等の見直しが必要になります。

ここからは、介護離職の防止を目的とした法改正、上記①「個別の周知・意向確認等」および②「雇用環境整備」について解説します。

介護離職防止の義務化①「個別の周知・意向確認等」

介護休業・介護両立支援制度等の制度を十分に活用ができないまま離職に至るケースもあります。こうした状況を防止するため、介護休業・介護両立支援制度等の個別周知や意向確認等が義務付けられます。

1 介護に直面した従業員への個別の周知・意向確認

介護に直面した旨の申出をした従業員に対し、介護休業・介護両立支援制度等の内容を個別に周知しなければなりません。あわせて、介護休業・介護両立支援制度等の利用について、従業員の意向を確認する必要があります。

①対象者

介護に直面した旨の申出をした従業員

【申出方法】
介護に直面したことを従業員が申出する方法は、法令等による定めはありません。口頭でも可能です。

申出方法を企業が指定する場合、従業員に負担があまりかからない方法にするなど配慮が必要です。過度に煩雑な方法などを設定してはなりません。また、指定以外の方法による申出であっても、必要な内容が伝わるものであるかぎり、個別周知や意向確認を実施する必要があります。

②周知事項

申出をした従業員に周知する内容は、以下の3つです。

【介護休業・介護両立支援制度等の内容】

以下の制度内容を周知します。
・介護休業
・介護休暇
・所定外労働の制限
・時間外労働の制限
・深夜業の制限
・所定労働時間の短縮等の措置 など

【介護休業・介護両立支援制度等の申出先】

(例)人事部など

【介護休業給付金に関すること】

雇用保険の被保険者である従業員が一定の要件を満たした場合、申請により介護休業給付金が支給されます。

参考|厚生労働省『介護休業給付の内容及び支給申請手続について』

③個別周知および意向確認の方法

以下のいずれかの方法によって実施します。面談はオンラインでも可能です。従業員が希望した場合のみ、FAXや電子メール等で行うこともできます。

【個別周知や意向確認を行う者】

個別周知や意向確認は、人事部などの担当者にかぎらず、事業主から委任を受けている場合は、所属長や直属の上司等が行うことも可能です。ただし、実施する者は、介護休業・介護両立支援制度等の趣旨や適切な実施方法などを十分に理解しておく必要があります。

【注意すべきこと】

介護休業・介護両立支援制度等を利用した前例がないことを一際強調したり、申出すると不利益になることをほのめかすなど、介護休業・介護両立支援制度等の利用の申出を控えさせるようなことは行ってはなりません。

2 介護に直面する前の早い段階での情報提供

従業員が介護に直面する前に介護休業・介護両立支援制度等の理解を深めることができるよう、40歳頃の早い段階で介護休業・介護両立支援制度等に関する情報を提供することは、介護による離職防止に有効です。

従業員に対し、以下のように情報提供を行わなければなりません。

【複数の従業員を集めての対応】

年度当初などに対象となる従業員を一堂に集めて情報提供を行うことも可能です。この場合も、上の表に従って情報提供を行ってください。

【法改正前に40歳に達している従業員への対応】

2025年4月1日より前に40歳に達している従業員への情報提供は、義務ではありません。しかしながら、介護休業・介護両立支援制度等の理解を深めておくことの大切さは同じであるため、すでに40歳に達している従業員に対しても同様の対応を行うことが望ましいとされています。

情報提供を行うにあたり、介護保険制度の内容も伝えることが理解を深めることに効果的と言われています。このタイミングで介護保険制度の周知も行うことをおすすめします。

参考|厚生労働省『40歳になられた方へ 介護保険制度について』

介護離職防止の義務化②「雇用環境整備」

介護問題に直面した従業員から、介護休業・介護両立支援制度等の申出がスムーズに行われるよう、次のいずれかの措置を講じることが義務付けられます。ひとつに限らず複数の措置を講じることが望ましいとされています。(現在、介護に直面している従業員がいない場合でも、すべての企業が雇用環境の整備を行う必要があります。)

①介護休業・介護両立支援制度に関する研修の実施

② 介護休業・介護両立支援制度等に関する相談体制の整備(相談窓口設置)

③ 自社の労働者の介護休業取得・介護両立支援制度等の利用の事例の収集・提供

④ 自社の労働者へ介護休業・介護両立支援制度等の利用促進に関する方針の周知

①研修の実施

全従業員に対し、実施することが望ましいとされています。少なくとも管理職の従業員に対しては実施してください。

(研修内容 例)
・介護に対する事前の心構え
・仕事と介護の両立のためのポイント
・働き方の見直し(介護休業・介護両立支援制度等の活用) など

資料を配布するのみ、イントラネットに掲示のみ、などの方法は研修を実施したとは認められません。動画によるオンライン研修は認められますが、従業員が研修を受講していることを担保する必要があります。

②相談体制の整備

人事部、総務部等の担当者や管理職など、介護休業・介護両立支援制度等に関する知識を持ちアドバイスができる担当者を相談窓口に設置します。相談内容によっては、ケアマネジャーなど介護の専門家への相談を勧めるなど適切な対応を行います。

相談窓口でいつでも相談できることを、日頃から従業員に周知しておくことも必要です。

参考・ダウンロード:厚生労働省『「従業員から介護に関する相談を受けた際に対応すべきこと」チェックリスト』(word)

③利用事例の収集・提供

自社の従業員の介護両立支援制度の活用事例などの情報を提供します。

以下の資料は、仕事と介護を両立するためのポイントのほか、両立事例が掲載されています。事例の伝え方の参考にしてください。

参考・ダウンロード:厚生労働省『平成29年度版「仕事と介護 両立のポイント あなたが介護離職しないために」【詳細版】』

④利用促進に関する方針の周知

介護休業・介護両立支援制度等の利用の促進について、企業の方針などを従業員に周知します。

以下は、従業員への周知文書のサンプルです。参考にしてください。

参考・ダウンロード:東京労働局『(介護)申出しやすい雇用環境整備<参考様式>』(word)

過去の記事

過去にも当ブログで、介護に関する記事を書いていますので、こちらも参考にしてください。

記事:「従業員からの介護の相談に対応できますか?事業主が押えるべき介護休業の基本。」

まとめ

介護は、どの従業員にも突然訪れる可能性があり、仕事と介護の両立が重要なテーマとなっています。今回の改正では、介護休業制度の「要介護状態」の判断基準が見直され、障害児・者や医療的ケア児・者を介護する場合も適用しやすくなりました。

企業にとっても、人材不足が深刻化している現在、介護離職の防止は経営において避けて通れない問題です。そのため、改正内容を正しく理解し、従業員が安心して制度を利用できる環境を整備することが求められます。

2025年4月の施行に向け、企業は早めの対応を進め、制度の周知や就業規則の見直しを行うことが必要です。従業員が仕事と介護を両立できるよう、企業と従業員が一体となって取り組むことが、持続可能な職場環境の構築につながります。

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