男性育休取得1日で60万円受給も可能に?両立支援等助成金がさらに拡充!

こんにちは。令和6年度の補正予算が成立したことに伴い、「両立支援等助成金」「産業雇用安定助成金」「雇用調整助成金」が改正されました。今回は、そのなかでも両立支援等助成金について焦点を当て、内容が拡充されました「出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)」と「育休中等業務代替支援コース」の、最新情報を分かりやすくお伝えいたします。

男性育児休業の取得率アップへの追い風や、育児休業中の業務をどう代替するかといった企業の悩みをサポートする制度がますます充実し、企業規模要件も緩和されるなど、より多くの事業主が活用しやすくなっています。ぜひ最後までご覧いただき、貴社の両立支援策にお役立てください。

なお、助成金の支給要件等の詳細に関しては、必ず各都道府県労働局の雇用環境均等室(部)にご確認ください。

目次

両立支援等助成金とは?

厚生労働省が管掌する両立支援等助成金は、「仕事と育児・介護等が両立できる職場環境づくり」を進めるために設けられた助成金制度です。現在、大きく分けて以下の6つのコースがあります。

  1. 出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)
  2. 介護離職防止支援コース
  3. 育児休業等支援コース
  4. 育児中等業務代替支援コース
  5. 柔軟な働き方選択制度等支援コース
  6. 不妊治療両立支援コース

少子高齢化が進む中で、「仕事」と「家庭」の両立支援は企業・従業員双方にとって重要性が高まっています。採用難や人材流出の懸念を抱える企業にとっても、従業員が安心して長く働ける職場づくりは必須の課題です。こうした課題を解決するために助成金を活用し、「両立支援施策にかかる費用」や「制度設計による負担」を軽減できるのが、この両立支援等助成金です。

今回拡充された2つのコース

今回の改正で注目されるのは、以下のコースです。

出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)

育休中等業務代替支援コース

厚生労働省から変更内容に関するリーフレットが出ていますので、まずはこちらをご確認ください。

出典:厚生労働省リーフレット「令和6年度補正予算 両立支援等助成金の拡充」

ここからは、それぞれのコースの特徴や今回の改正ポイントを詳しく確認していきましょう。

出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)

男性従業員の育児休業取得を促進するために設けられた助成金コースです。最大のポイントは、子の出生後8週以内に育児休業を取得した男性労働者に対して企業が適切な環境整備を行った場合や、男性育児休業の取得率が向上した場合に助成が受けられることにあります。

このコースには個々の男性従業員の育児休業取得に応じて申請できる「第1種」と、企業全体の男性従業員の育児休業取得率に応じて申請できる「第2種」があります。

第1種(個々の男性の育児休業取得)

第1種は、個別の男性従業員の育児休業取得を支援するものです。

  • 子の出生後8週以内に育児休業を開始した男性労働者が対象
  • 1人目は20万円、2~3人目は10万円が支給
  • 1人目で「雇用環境整備措置を4つ以上実施」した場合は、さらに10万円の加算

また、全コース共通で①男性の育児休業等取得率、②女性の育児休業取得率、③男女別の平均育休取得日数を「両立支援のひろば」サイトで公開した場合、「育児休業等に関する情報公表加算」として2万円が加算支給されます。

支給要件は下図のとおりです。

出典:厚生労働省「両立支援等助成金申請の手引き2024(令和6)年度版」より抜粋

その他詳細は、「支給要領 両立支援等助成金(出生時両立支援コース)」、「両立支援等助成金申請の手引き」や各都道府県労働局にてご確認ください。

参考:厚生労働省「支給要領 両立支援等助成金(出生時両立支援コース)支給要領 両立支援等助成金(出生時両立支援コース)」
参考:厚生労働省「両立支援等助成金申請の手引き2024(令和6)年度版」

ここで一つご注意いただきたいのは、今回の令和6年補正予算による変更で、第2種を申請した事業主は、第1種の支給対象から除かれることとなりました。申請の順番を十分に注意いただく必要があります。

第2種を先に申請すると、第1種の申請・受給ができなくなる

第2種(男性育児休業取得率の向上)

第2種は、企業全体で男性育児休業取得率を高めることを支援する制度です。

第2種は、要件を満たすことで最大で60万円(+プラチナくるみん加算15万円)受給できる制度ですが、今回の令和6年度補正予算により要件が一部変更となりました。

まず、下図が変更前(ご注意ください)の支給要件です。

出典:厚生労働省「両立支援等助成金申請の手引き2024(令和6)年度版」より抜粋

上記支給要件からの変更内容のポイントは下記のとおりです。

支給要件①「第1種の助成金を受給していること」が削除されましたよって第1種を未受給でも第2種を申請可能となりました。

支給要件②③の要件に変更はありません

支給要件④が、次のいずれかを満たすことが要件という内容に変更されました

■前事業年度と比較して30ポイント以上上昇し、50%以上となっていること
 (例:前事業年度において30%だった場合、60%以上になること)
■配偶者が出産した男性従業員(雇用保険被保険者)の数が5人未満である場合に、支給申請日の属する事業年度の直前の2事業年度における男性の育児休業取得率がいずれも70%以上であること

支給要件⑤は削除されました。よって、複数名育休対象男性従業員がいなくても支給できるようになりました。

今回の令和6年度補正予算による改正後は、第1種を受給済みでなくても、第2種が申請可能 となりました。


つまり今回の改正で、男性育児休業取得率0%だった事業主であっても、年度中にたった1日だけでも男性労働者が育児休業を取得すれば、その実績によって一気に第2種の要件を満たす可能性が出てきました。

このように**「第2種が使いやすくなった点」**が、今回の改正の最大の目玉と言えるでしょう。男性育児休業を推進したいと考えている企業にとっては、非常に大きな後押しとなります。

ただし、第1種の方でも触れましたが、この第2種の申請にあたっては一つ注意点があります。今回公表された支給要領には次のような条文が記載されています。

支給要件・支給額(第1種)
支給対象事業主
「次のいずれにも該当する中小企業事業主に支給するものとする。ただし、第2種の申請を行った(申請中も含む)中小企業事業主は除く。」
(以下省略)

ここでいう「第2種の申請を行った中小企業事業主は除く」とは、「第2種を申請(または申請中)している事業主は、第1種の受給対象にはなりません」という意味合いです。簡単に言えば、

第2種を先に申請すると、第1種の申請・受給ができなくなる

ということです。もし企業として「まずは個々の男性従業員に育児休業を取ってもらい、第1種(1人目20万円+加算10万円など)で育児休業促進を図りたい」という考えがある場合は、順番を間違えないよう十分ご注意ください。

またこれは改正ではありませんが、表の支給要件②及び③については、男性労働者の育児休業の開始日の前日までに行っている必要がありますので、この点もご注意ください。

このコースは、男性の育児休業取得を促進するために設けられた助成金制度です。これまでの制度では、「第1種(男性個々の育児休業取得)」と「第2種(男性育休取得率の上昇)」に分かれており、かつ従来は「第1種を受給しないと第2種を受給できない」という要件が課されていました。しかし、令和6年度の補正予算成立後は、第1種を受給していなくても第2種を申請できるよう大幅にハードルが下がりました。

育休中等業務代替支援コース

このコースは、育児休業や育児短時間勤務中の代替要員確保、あるいは周囲の労働者へ手当を支給するなどして、中小企業事業主等が負担するコストを支援するための助成金制度です。

支給要件の詳細については、「支給要領 両立支援等助成金(育休中等業務代替支援コース)」、または各都道府県労働局にご確認ください。

参考:厚生労働省「支給要領 両立支援等助成金(育休中等業務代替支援コース)」

今回の令和6年度補正予算で改正となったのは、主に次の2つポイントです。

業務体制整備を社労士に委託した場合の経費給付額が20万円に

業務体制整備のための給付は、1つの事業主において、1人目の対象育児休業取得者の際の1回に限り受給できます。金額はこれまで、育児休業による手当支給の場合で5万円、育児短時間勤務による手当支給の場合で2万円でしたが、1万円ずつ増額され、それぞれ6万円、3万円となりました

さらに、業務見直し・効率化、就業規則等の見直しに関する労務コンサルティングの実施等業務体制整備について、外部の社会保険労務士等に委託した場合は20万円と大幅な増額となりました

これにより、育児休業・育児短時間勤務をした労働者の業務を他の社員がカバーし、その社員に手当を支給した場合の助成金は、最大で以下の通りです。

  • 育児休業中の業務代替:最大140万円/人
    (「休業取得時」30万円+「職場復帰時」110万円)
  • 育児短時間勤務中の業務代替:最大128万円/人
    (「育短勤務開始時」23万円+「子が3歳到達時」105万円)

さらに、①男性の育児休業等取得率、②女性の育児休業取得率、③男女別の平均育休取得日数を「両立支援のひろば」サイトで公開した場合、「育児休業等に関する情報公表加算」として2万円が加算支給されます。

常時雇用する労働者の数が300人以下の事業主はすべて、「育児休業中の手当支給」及び「育短勤務中の手当支給」の対象に!

従来、支給対象は中小企業に限定されるケースが多かったものの、今回の改正により、常時雇用する労働者の数が300人以下の事業主であれば、たとえ「大企業」に分類される事業主であっても支給対象となる特例が拡充されました。これにより、これまで利用できなかった事業主でも条件を満たせば積極的に活用できるようになり、制度の裾野が大きく広がっています。

ただし、育休中等業代替支援コースの中でも「育児休業中の新規雇用」については、「中小企業事業主」のみが対象となりますのでご注意ください。

「育児休業中の新規雇用」については、中小企業事業主のみが対象のまま

男性の出生時育児休業(産後パパ育休)も含めて、取得者が増えるほど「その間の業務をどうするか?」という課題は企業規模にかかわらず顕在化します。特に従業員数が少ない企業ほど、一人ひとりの業務量の比重が大きいため、育児休業を取ること自体に対する社内のハードルが高くなりがちです。こうした背景があるからこそ、今回の拡充は多くの事業主にとって大きなチャンスとなるでしょう。

注目すべき制度拡充の背景とポイント

政府がこのように両立支援等助成金を拡充している背景には、主に以下の3つの要素が挙げられます。

(1) 少子化対策としての男性育児休業促進
合計特殊出生率の低迷が続く日本では、子育て世帯への支援が急務とされています。母親だけでなく父親の育児参画を後押しすることで、出産後の女性の離職を防ぎ、出生数の減少にも歯止めをかける狙いがあります。出産直後の8週は、母体の回復と育児への慣れが必要な時期ですが、これまで男性が積極的に関わることは少なく、取得率も極めて低水準でした。こうした状況を改善するため、**「まずは短くてもいいから男性育休を取ってみましょう」**と促すのが、出生時両立支援コースの拡充です。

(2) 育児休業中の業務をどうフォローするかという企業の不安を解消
育児休業を取得する従業員が増えれば増えるほど、経営者や人事担当者にとって悩みの種となるのが、「その間の業務を誰がどのように担うのか?」という点です。多忙な職場であればあるほど、1名いなくなるだけで業務全体に深刻な影響が出る場合があります。そこで、代替要員の雇用や周囲の社員への手当支給を後押しする育休中等業務代替支援コースを拡充することで、「男性育休を取りやすい+業務体制もしっかり守る」 両立が図れるようになっているのです。

(3) 企業規模要件の緩和による利用しやすさの向上
以前まで、両立支援等助成金は中小企業向けの色彩が強く、「大企業は対象外」または「限定的にしか活用できない」ことが多くありました。しかし、現在では「常時雇用する労働者が300人以下」であれば支給対象となるなど、企業規模要件が大幅に緩和されています。「大企業に分類されるが、実際の雇用人数は少ない」という企業にとっては、今回の改正が追い風となるはずです。

具体的な活用例

ここで両立支援等助成金の具体的な活用事例を紹介します。

事例1:男性育児休業取得率を高め、第2種の助成金を受給した例
就業規則や育児休業規程を改正し、全社員向けに「男性が育児休業を取得しやすい職場づくり」をPR。管理職研修を実施して、男性部下に育児休業の希望を伝えやすい雰囲気を作った。その結果、男性育児休業取得者が増え、1年間で取得率が50%以上に上昇。前年度比で30ポイント以上アップしたため、60万円の助成を受け取ることができた。

事例2:育休中等業務代替支援コースを活用した例
従業員が育児休業に入るタイミングで派遣社員を新規に採用し、業務をカバー。併せて周囲の正社員にも一部業務を割り振り、その負担増に対する手当を新設した。就業規則を整備し、手当を支給した実績をもとに助成金を申請したところ、派遣社員を雇用した費用と周囲への手当分に対しての支援が認められ、数十万円単位の助成を受給できた。

こうした具体例から分かるように、男性育休取得促進(出生時両立支援コース)と、育児休業中の業務サポート(育休中等業務代替支援コース)を組み合わせることで、会社としては「従業員の安心感向上」と「業務の円滑化」の両方を実現できます。もちろん申請には一定の書類手続きや要件確認が必要ですが、一度制度を整えれば、今後も継続的に活用できるメリットがあります。

令和7年施行の育児・介護休業法改正との関係

令和7年4月からは育児・介護休業法も大きく改正され、出生後休業支援給付の創設や子の看護休暇の対象年齢引き上げなど、多岐にわたる見直しが行われます。これにあわせて両立支援等助成金も追加的な改正が行われる可能性があります。

育児・介護休業法改正の詳細については過去の記事をご確認ください。

記事:「知っておきたい!育児・介護休業法と次世代育成法の重要改正点」

助成金申請の流れと注意点

両立支援等助成金は国の制度のため、申請には明確な手続きと書類準備が必要です。以下は一般的な流れとなります。

(1) 労務環境の整備・社内規定の見直し
就業規則に育児休業規定や育児短時間勤務規定をしっかり定め、男性従業員にも育児休業を取得させやすい環境を整えます。環境整備の取り組みを明文化しておくと、第1種・第2種いずれの要件も満たしやすくなります。

(2) 目標や対象者、実施期間を設定
例えば第2種を狙う場合、「前年度の男性育児休業取得率0%から、今年度は50%を目標にする」といった社内目標を立てておきましょう。業務代替支援コースを利用する際も、対象者の氏名や代替要員の雇用形態、期間などを具体的に定めると申請時にスムーズです。

(3) 実施・書類の整備
男性育児休業の取得が実際に始まったら、労働者名や育児休業期間、休業中の給与や手当、周囲の社員へ支給した手当などの証拠書類をしっかりと残します。後日申請するときに、これらの書類を添付または提示する必要があります。

(4) 助成金申請
決められた申請書類(支給要領に準拠した書式)を作成し、労働局へ提出します。申請期限が定められているため、無理のない計画を立て、書類不備がないよう注意しながら進めることが大切です。不備があると支給決定が遅れるか、不支給となってしまうリスクもあるため、必要に応じて専門家である社会保険労務士に相談することをおすすめします。

男性育休に対する自治体の補助金

厚生労働省の両立支援等助成金等は別に、各自治体で男性従業員の育児休業取得促進のための補助金制度を取り入れているケースが結構あります。またその場合、要件に該当すれば、両立支援等助成金と併給できることも多いように認識しています。

下記に、当事務所のある富山県の男性育児休業取得促進補助金についてご紹介していますので、ご参照ください。

記事:「男性社員に育児休業を取得してもらい、会社も従業員も補助金をもらいましょう! (富山県限定)」

まずは、自分の関係する自治体に、同様の補助金がないかご確認ください。

まとめ

令和6年度補正予算の成立により、両立支援等助成金は男性育児休業を一層後押しする制度へと進化しました。特に今回の拡充で「出生時両立支援コース」のハードルが下がり、第2種の申請がしやすくなったことで、事業主側にとっては「男性育児休業の取得率アップ」を実現する大きなチャンスといえます。

男性の育児休業が取りやすい職場づくりは、少子化時代において優秀な人材を確保し、定着させるうえで大きなアピールポイントになります。社内のワークライフバランスを推進する取り組みが評価されれば、従業員エンゲージメントが高まり、生産性向上にもつながるでしょう。さらに、育児休業取得時の業務フォローが充実していれば、育休復帰後の従業員が安心して業務に復帰しやすくなるほか、離職率の低下やキャリア継続の促進にも寄与します。

また、令和7年には育児・介護休業法のさらなる改正も控えています。テレワークや時差出勤などの柔軟な働き方がますます広がるなかで、これらの制度をスムーズに導入し、運用するためのコストも決して軽視できません。両立支援等助成金をうまく活用すれば、こうしたコストを軽減しつつ、従業員が安心して長く働ける環境づくりを進めることができるのです。

一方で、「第2種を申請すると第1種が受給できなくなる」という条文が支給要領にある点にはくれぐれもご注意ください。どちらのコース(第1種・第2種)を狙うのか、その順番をどうするかを慎重に検討し、自社にとって最もメリットが大きい方法を検証することが重要です。単純に「支給額が大きいから第2種に飛びつく」というよりも、将来的に複数の男性従業員が育児休業を取得する見込みがあるのかなど、経営戦略も含めて考えると良いでしょう。

「出産で辞める従業員が続出してしまう」「男性が育児に参加しづらい風土を変えたい」「従業員数は少ないのに大企業扱いで助成金が使えなかった」というお悩みを抱えていた事業主の方は、ぜひこの機会に最新の両立支援等助成金の活用を検討してみてください。

両立支援等助成金は、企業と従業員が「Win-Win」の関係を築くうえで非常に重要な制度です。男性が育児に積極的に参加できるようになり、社内全体の働きやすさも向上すれば、少子高齢化が進む中でも魅力ある企業として評価されるでしょう。また、育児休業を取りやすい環境を整備すると同時に、業務代替策を充実させることで、生産性を維持しながら従業員が長く安心して働ける職場づくりが実現します。

今回の改正をきっかけに、ぜひ自社の就業規則や労務管理体制を見直し、「両立支援等助成金」によるサポートを最大限に活用しましょう。申請手続きを進めるうえで戸惑う点や不明点があれば、どうぞ遠慮なくご相談ください。多くの企業が、従業員の育児休業取得をスムーズかつ安心して行えるよう取り組み、その成果を助成金で後押しすることで、より豊かな企業文化を築いていただければ幸いです。

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